第9回 柚之原 さおり様
(春日井市民病院職員)
はじめに、自己紹介をお願いいたします。
愛知県内の高校(衛生看護科)を卒業後、看護専門学校、助産専門学校を経て、平成7年に助産師になりました。新卒で就職した総合病院では産休・育休を経てワーキングマザーとして忙しく働いていましたが、母の介護のために退職をしました。その後4年間の専業主婦期間を経て、産科クリニックでパート勤務をし、平成23年に春日井市民病院に入職しました。 アドバンス助産師は初年度の2015年に認証取得しました。
勤務先について教えていただけますか。
春日井市民病院は一般病床数552床(うちICU、CCU6床、救急病床6床)、手術室10室、人工透析25床、感染症病床6床の28診療科を有する総合病院です。 産婦人科病棟は、病床数40床の混合病棟です。分娩件数は平成30年度252件(そのうち帝王切開出産は80件)で、産婦人科外来との一元化により、すべての妊産婦と新生児に寄り添い、妊娠から出産にいたるまで切れ目のないケア提供体制の構築を推進しています。また、女性病棟として、婦人科疾患では手術や化学療法、放射線療法の看護や終末期の看護、さらに、内科、外科、整形外科など様々な疾患の入院患者さんの看護を行っています。 春日井市は「子はかすがい、子育ては春日井」宣言をし、子育て施策の一層の充実を図り、子育て世代を始めとする全ての世代の「暮らしやすさ」の向上につなげています。当院では増加するハイリスク妊婦のきめ細やかな支援のために、平成25年より春日井市青少年子ども部子ども政策課母子保健担当保健師と情報連絡会議を毎月行っています。ハイリスク妊婦には受け持ち助産師を決め、妊婦健診時に個別に面談を行い、日常生活指導を始め、個々の妊産婦の事情に応じてMSW、精神科医師、臨床心理士等との連携の調整も行います。 さらに、本来お母さんと赤ちゃんが持っている「産む力」「生まれる力」を引き出したお産を目指して、平成22年に助産師外来を開設し、平成25年からは院内助産システムを開始しました。 産後の支援としては、産後電話訪問、産後ケア入院、おっぱい外来、桶谷式乳房外来があります。
普段のお仕事の様子はいかがですか。
産婦人科病棟では固定チームナーシングを導入しています。産科を主とするチーム、婦人科・他科を主とするチーム、外来チームに分かれています。 私は外来チームとして、主に外来診療介助をしながら病棟と情報交換を行っています。もちろん、夜勤では病棟にいますので、チームの垣根を越えて、産科から他科まで様々な患者さんの担当になります。外来チームは、産科チームと婦人科・他科チームの横串を通す立場にあると考えています。 また、ACP相談員として、患者さんの思いを聴き、人生の最終段階にある患者さんとご家族の意思決定支援を行っています。外来通院中に緩和医療チームや医療連携担当者と相談して、望む療養の場の調整などを行うこともあります。
これまでに受けた研修の中で、特に日々の業務に役立っていると感じる研修はどんなものでしょうか。
または、今後受講していきたい研修があれば教えてください。
助産師は周産期医療で重要な位置にいると思っています。産婦さんの一番近くにいる医療者として緊急時の第1発見者になる可能性が高いため、緊急時に対応できるスキルを身につけることが必須です。そのための知識、技術のスキルアップとして、ALSOプロバイダーコース、日本母体救命システム普及協議会(J-CIMELS)、新生児蘇生法、そして、当院で手術室と合同で行っている緊急帝王切開シミュレーションは日々の業務に役立っていると感じています。 そして、国際認定ラクテーションコンサルタント(IBCLC)として母乳育児支援に携わりながら、科学的根拠に基づいた支援ができるよう研修会に参加しています。 今後は、妊産婦のメンタルヘルスケア関連の研修で知見を深めて、様々な事情を抱える妊産婦の支援を行っていきたいと考えています。
助産師を目指した理由やきっかけはどんなことでしたか。
看護学生時代、母性実習で、出産直後にこわごわと赤ちゃんを抱っこしていた女性が、日に日にお母さんになっていく姿に感銘を受けて産科で働きたいと思ったのがきっかけです。 命の誕生の場での介助の難しさや、やりがいを感じるようになったのは、就職してからですね。一時期は分娩介助技術の向上に夢中になり、常に頭の中で分娩介助のシミュレーションをしていました。娘とお風呂に入りながら、四つ這い分娩の介助の練習をしたりしていたので、娘に「ママなにしてるの?」と不思議がられることもありました。
この仕事の難しさを教えてください。
まずは、産科救急事例(子癇発作、羊水塞栓、危機的出血、新生児仮死など)でのチーム医療の難しさです。特に印象に残っているのは、羊水塞栓で急変した患者さんの対応です。切迫した状況の中、院内コードブルーをかけて集まった多くの医師、看護師に適切に応援の指示をすることができず、現場は混乱しました。その経験から、院内で手術室や検査室、救急外来も巻き込んだ産科救急事例の合同シミュレーションが始まりました。 そして、妊産婦のメンタルヘルスケアです。助産師は妊産婦の一番近くで、お話を丁寧に聴きながら心配や不安に耳を傾け、お母さんが自分で決める「意思決定」の支援をします。出産育児の主役はお母さんと赤ちゃんです。助産師は黒子として、そばで寄り添いながらも依存されすぎない立ち位置でいることに難しさを感じます。
この仕事の良いところを教えてください。
助産師は英語でmidwifeと言いますが、「女性に付き添う者」という意味です。妊娠、出産、産褥各期を通して女性を支える助産師には、伝統と可能性があると思っています。 伝統は、今まで諸先輩方が築き上げてきた分娩介助技術や妊産褥婦の身体的、精神的ケアの継承であり、可能性は、現代の産科医師不足の中で産科医療チームの一員としての役割や「子育て」が「孤育て」などと言われる現代の母子を支える役割にあると考えます。 今までも、これからも、お母さんを支えながら社会に貢献できる仕事だと自負しております。
助産実践能力のブラッシュアップのためにしていることや、今後受講したい研修などはありますか。
教員は臨地での実践に制限がありますが,実践能力が衰えると学生にも臨地にも迷惑をかけ,ひいては対象者の不利益にもつながります。臨地で必要とされる実践に関する研修は引き続き受講したいです。さらに今後は地域での母子とその家族の課題に関する研修も受講していきたいと思います。また教員として,教育方法や評価,教育機関の運営や行政との連携に関する研修も受講していきたいと考えています。
助産師になってより磨かれた部分、得意になったことはどんなことでしょうか。
妊婦さんが自分の身体を知る手助けになって、マイナートラブルの改善に役立てればと思い、マタニティヨーガを学び始めました。そこから自分の身体のメンテナンスも考えるようになりました。ヨーガをしていると、気持ちも穏やかになります。まだ得意と言えるまでには到達していませんが、助産師をしているから出会えたことの一つです。
最後に、アドバンス助産師としての抱負や、これからアドバンス助産師を目指す方へのアドバイスをお願いします。
助産師の理念の一つに「生命の尊重」があります。その中に「女性と子どもの生命の尊重とともに、その生命を支える他者の生命への畏敬、そして生命にかかわることの責任感を片時も忘れない」という一文があります。今までも、これからも、妊産婦一人一人に丁寧に向き合っていくことを大切にしたいと思っています。 アドバンス助産師が増えることで、全国どこに行っても、同じレベルのケアを安全に受けることができる環境が整います。これからアドバンス助産師を目指す方には、根拠に基づいたケアを提供すること、そのための知識、技術のアップデートをすることを常に忘れないでいて欲しいと思います。
ご協力ありがとうございました。