Vol.11
2022.07.25
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周産期医療体制確保のために~アドバンス助産師への期待
各職種の専門性を活かして地域周産期医療体制を維持する。アドバンス助産師は共に働くチームの一員
公益社団法人 日本母性衛生学会 理事長
正岡 直樹
私は昭和30年の生まれです。当時は年間3,095人の女性が分娩で命を落とし(妊産婦死亡率161.7:出産10万対)、10万人以上の児が亡くなっていました(周産期死亡率43.9: 出生1,000対)。
そのような状況下、日本母性衛生学会は、森山豊初代理事長が「妊産婦の死亡率が欧米と比較してはるかに高率のまま残されており、この分野の遅れを取り戻すのには各方面の方々の総合的な協力体制が必要で、それが本学会設立の趣旨である」とし、定款に「すべての女性の健康を守り、母性を健全に発達させ、母性機能を円滑に遂行させるために、母性衛生に関する研究、知識の普及、関係事業の発展を図り、もって人類の福祉に寄与する。」という高邁な目的を掲げ、昭和34年に産声を上げました。
昭和30年以降の自宅分娩から施設分娩への移行と共に、我が国の各種周産期統計は劇的な改善をみました。2019年の妊産婦死亡率は3.3、周産期死亡率は2.7となっており、妊産婦死亡率は昭和30年の実に50分の1です。これらの背景には産科医療従事者の日夜を問わず、寝食を忘れての献身的努力があったことは異論の無いところだと思います。
ところが2021年5月に「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」が成立し、2024年4月1日の医師に対する時間外労働の上限規制の適用開始に向け具体的な措置が示されているところです。
私たちが医師となった頃は病院に長い時間いることが美徳とされ、また他診療科と比較して多くの当直回数も当然のこととしてきました。しかし当直を時間外労働とした際には、かなりの労働制限を余儀なくされます。宿日直制やタスク・シフト/シェアの導入がなされなければ地域周産期医療体制の崩壊が危惧されています。
アドバンス助産師は助産に関わる高度な知識と技術を有し、標準的な助産ケアを自律して提供できる能力を客観的に評価された専門家です。院内助産、助産師外来のみならず、高齢出産やハイリスク妊産婦に対する助産ケアも行い、異常分娩の時は医師・看護師と連携してチームとして共に働いてくれることを期待しています。